小さなことが世界観をつくる
小さな幸せの風景
「うわぁ、おいしい!!」
「ねっ、そうだよね、ほんとにおいしいね~!」
笑顔でお互いの感動を目で伝え合いながらも、
大きく開いた口はただ食べることに夢中。
幸せな時間!
おいしいケーキやタルトの焼き立て。
それを、これまた淹れたばかりのお茶と一緒に食べる時間。
なにかをがんばって達成したわけでもないのに、心に幸せ感が満ちる。
小さなことが大きな幸せになる。それを実感するひととき。
手間をかけるのは大変だけれど、創造性の発揮
生活は雑多なことも多く、整理したり掃除したりお料理したりと、
手間ひまを要求してくる。
そのシーンでいつも幸せを感じるわけでもなく、実際「くたびれるな~」と思うことも。
けれど、小さなシーンのハッピーが心をあたためてくれることにも気づいてゆく。
大きな幸せばかりで人生を満たさなくても、宝は生活シーンに混じっている。
そして、その小さな宝を集めるように、意識的に創造してゆきたくなる。
この姿勢は、コロナの影響で生活が制限縮小される中でも、
日々に違いを生む。
今までなら気が向いた時に気が向いた場所でおいしいものを食べれば、それで良かった。
それが生活の小さなアクセントになった。
けれど、肝心のその場所が閉まっているのだから、これは自分で工夫するしかない。
憧れからの日常クリエイト
こんな生活の中の小さな創造性発揮の素敵さを感じたのは、実は日本に住んでいた時。
随分昔の雑貨ブームの時。
自由が丘にあったショップが気になり、どうしても訪ねたくなった。
それ以前は、食器と言ったって特に凝るわけでもなく、乱暴に言えばなんでも良かった。
けれど、雑誌などで見かけるそのショップのオーナーさんは優し気な佇まい、知的な雰囲気も
素敵だったけれど、その暮らしぶりが特に魅力的だった。
彼女のライフスタイル、世界感にまず魅了され、紹介している雑貨を自分の暮らしにも取り入れたくなった。
そうすれば、私の生活にもきらめきや優しい部分が増えるように思ったから。
雑誌で見る由由さんは審美眼に優れ、丁寧な手仕事の小さきものを愛でる暮らしをされていて、
アンティークの話やヨーロッパの街で見つけたというアクセサリーなど、
すべて美意識が反映されていて憧れとなった。
特に、買い付けを兼ねての初夏のイングランドの旅風景とマーケットなどの様子は、
私の生活と同じところにあるものであろうのに、でも手が伸ばせない世界に感じた。
私は小さなため息をつきながら、でも夢中で眺めた。
それはただ物があるという豊かさではなく、身の回りを慈しんで日々を創るという、
意識的で優しい世界へのドアだった。
実際イギリスで暮らしてみて・・・
そして英国への憧れが膨らんで、そこへ仕事上の訓練という名目をつけて、
アラフォーもアラフォーの最後の年、イギリスで一年間学ぶことを決めた。
大きな決断だった。
自分がそんなことができるとは思わなかったし、その後の生活や人生がどうなるのかもわからなかった。
未来地図も描けなかった。
けれど、どうしても体験したかった。丁寧な暮らしというもの、自分らしいライフスタイルというものを。
結論から言うと、イギリスでの生活は課題提出に終われ人生を楽しむどころか、
どうやって睡眠を確保しつつ試験に備えるかという、全く期待と違うものになった。
そして、英国イコールアフタヌーンティーなどと都合よく考えていた幻想が、すぐにパチンと破れた。
学校帰りスーパーで買い物を終え、トボトボと重い荷物を持って疲れた体でアパートへと帰る夕べの道すがら。
「一体何をしているんだろう、ここで」とみじめな気持ちになったことも何度もある。
「ばら色の眼鏡をかけて人生を眺める」
ドイツ語でもこんな風に言われる。
まさに私がそうだった。
人生の逃避だったのかもしれない。
でも、自分の人生を一から立て直したかった。どうしても。
今のドイツでの暮らし
そして今私はイギリスではないけれど、ドイツという異国に住み、
アフタヌーンティーという文化はないけれど、自然豊かな暮らしを楽しんでいる。
日本にいた頃、ふとした時に日本の住まいらしくない緑豊かな場所でジーンズを履き、
そこで暮らしている私自身を「見た」ことがある。
その時にはそれが何のことなのかわからなかった。
当時の私のワードロープにジーンズはなく、よりカジュアルな雰囲気の似合うその女性と自分が、
どうつながるのかわからなかった。
そして、直線コースで辿り着けたわけでは全くないけれど、理屈抜きに惹かれたもの。
それを辿って来たら、その女性のようなライフスタイルを送っている私が、今いる。
今も生活の核は小さなものを丁寧に掬い味わうこと
この異文化での様々に揉まれる中でも、生活の核になっているのは、
由由さんの本から学んだ人生の小さな風景を楽しむ姿勢。
小さなことを愛でる心が自分らしさを創り、人生を彩ってくれるということ。
さっとスィーツを手作りして、一輪のお花と共にティータイムを味わう。好きな食器で。
それを実現するためちょっとだけの手間をかけ、自分を幸せにしてくれるものから、
丁寧に小さなハッピーを集めてゆく。
そしてその集められたものが花束になり、人生を彩ってくれるようになると、
それはすでに血の通ったライフスタイルとなっていて、
どんな時も心の栄養源となってくれるということ。
自由が丘にあった由由さんの最初のお店の階段。
民家のような作りで二階のショップへ行くそのちょっとガタガタの階段を上る時に、
感じたときめきと不安。
その気持ちでドアを開けた時、私の心はスポンジのようになっていて、
一つ一つを夢中で眺めたっけ。
その喜びが、日常レベルでの私らしい人生を創る、その一歩になっていたんだなと思う。
自分を外側から見るように思い出すと、不器用ながらも人生へのひたむきさも感じて、
なんだか胸が熱くなる。
小さなことが大きな違いを生み、それを可能にするのは自分の心と手を通しての創造。
そんなことを何気なく教えてくれた由由さんの本たちは、今もドイツ生活での本棚に納まっている。
これは断捨離なしだわ、絶対に!
そして、ドイツで開かれるアンティークマーケット巡りは、今の私と夫の共通の楽しみ。
繊細なレース、美しい陶器。
今は当たり前のように眺める風景だけれど、あの原風景から変わらず流れ続ける
心を潤す源泉に、感謝の思いがする。
今年はマーケットも開催されるように祈って。
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